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東京地方裁判所 昭和34年(モ)11523号 決定

申立人 国

代理人 家弓吉巳 外一名

申立の趣旨

原告ドレスミシン工業株式会社被告前田郁同永吉末吉間の東京地方裁判所昭和二十九年(ノ)第一、三九七号約束手形金請求調停事件につき、昭和三十年一月二十七日成立した調停調書の執行力ある正本に原告の承継人国のため承継執行文を付与すべき旨の命令を貴部裁判長が所属裁判所書記官に対し発せられるよう裁判所書記官がなした承継執行文付与拒絶処分の変更を求める。

理由

一、申立人国(所管庁東京国税局)は、国税滞納処分により前掲申立の趣旨記載の調停調書による債権につき、債権者である原告の地位を承継したことを理由として昭和三十一年五月十七日付申請書をもつて御庁へ承継執行文付与の申請をしたところ御庁昭和三十一年(モ)第六一〇一号事件として審按された結果同年六月八日付通知書をもつて貴部裁判所書記官田中正昭から右調停調書正本に対し申請趣旨の承継執行文は付与しない旨の拒絶処分を受けたのである。しかしながら右拒絶処分は次項以下の理由により不当であるから、これが処分の変更を求めるため、本申立に及ぶ次第である。

二、すなわち、申立人国は滞納者ドレスミシン工業株式会社に対して有する滞納税金の強制徴収として昭和三十年十月二十一日国税徴収法第二三条ノ一に基き、同滞納会社が申立の趣旨記載の債務名義により被告前田郁、永吉末吉の両名に対して有する債権を被差押債権として差押え、右債権差押通知書は同月二十五日前田郁に送達された。

三、右債権差押及びその旨の債務者に対する通知によつて、国は滞納処分費及び税金額を限度として滞納会社に代位することとなるわけで(国税徴収法第二三条の一第二項御参照)、すなわち、国は右差押によつて被差押債権の取立権を取得し滞納会社に代つて債権者の立場に立ち、その権利を行使し得るに至るわけである。

右の関係は、民事訴訟法における強制執行手続において、債権差押命令並びに取立命令(民事訴訟法第五九八条及び第六〇二条)を得た差押債権者の地位と何ら異るところはない。

四、したがつて、国は自己の名をもつて、当該債権の取立に必要な滞納会社の有する権利を行使することができ、自ら債務者より弁済を受領し、これを執行債権の満足に充てることができるし、或は又取立に対し債務者が任意に履行しないときは、これに対し訴訟を提起し更に又強制執行することができるのである。

五、又、国が当該債権の取立権を取得する反面、滞納会社は右債権についての処分の制限を受けてその取立をなし得ないし、しかも債務者は滞納会社に対し弁済を禁止され、もし滞納会社に弁済した場合はその弁済をもつて国に対抗することができないのである。

従つて、取立権を取得した国としては、滞納会社のためにも適当な時期方法によつて取立をなすべき義務を負うのであつて、もしその行使を怠り迅速に取立を行わなかつたために充分の取立ができなくなつた結果、滞納会社に損失を与えたときはその賠償の責に任じなければならない(民事訴訟法第六一一条)。

六、以上述べたとおり、国税徴収法第二三条の一に基き債権差押手続を執行した国は、強制執行手続における債権差押命令並びに取立命令を得た差押債権者と全く同一の地位を有するものであるから、もし、既に滞納会社が当該債権につき訴訟を提起していれば、国は承継人として訴訟参加できるし(民事訴訟法第七一条第七三条)、又既に滞納会社が当該債権につき債務名義を有するときは、承継人に準じて執行文の付与を受けることができる(民事訴訟法第五一九条)ものと解すべきである。

なお、この点については、既に多数の学説も認めるところである(兼子一著「強制執行法」酒井書店二〇八頁。菊井維大著「民事訴訟法(二)」有斐閣一八四頁。加藤正治著「強制執行法要論」有斐閣一九七頁。板倉松太郎著「強制執行法義解」巖松堂五〇二頁参照)。

七、しかるに、貴部裁判所書記官が、本件調停調書正本に対し国のため承継執行文を付与しない旨の拒絶処分をなしたことは前述のとおり不当であるから、これが変更を求めるものである。

(昭和三四年八月一一日付)

決  定

東京地方裁判所昭和二九年(ワ)四、五四一号約束手形金等請求事件(原告ドレスミシン工業株式会社、被告前田郁、同永吉末吉)につき、昭和三〇年一月二七日成立した調停の調停調書正本に対し、東京地方裁判所昭和三一年(モ)第六、一〇一号を以て原告の承継人として承継執行文附与の申請をなしたのに対して、同庁裁判所書記官田中正昭がなした承継執行文を附与しない旨の処分に対し、適法な異議の申立があつたが、右異議の申立は理由があるから右書記官の処分を取消し、申立人に対し前記承継執行文を附与することを命ずる。

(裁判官 西山要)

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